第1回 音ってなんですか?
第1回 音ってなんですか?
ここでは、1枚のCDに収められた音の裏にどのような秘密が隠されているか、またCDはどのように作られているかを、実際に"音"を作るかた(エンジニアさん)に伺っていくコーナーです。
おなじみのあの曲にも、私たちが知らないたくさんの秘密があるのです。
ぜひぜひお楽しみあれ。
さて、第1回目の今回は、エンジニアとはいったいどんな仕事をする人なのか、TUBEのレコーディングではおなじみの相原雅之さんと高桑心さんにお話を伺っていきます。また、お2人がこだわって作った"RED BIRD studio"ができるまでも伺ってみました。
──自分で作るということ......。
──今回は新連載ということで、よろしくお願いいたします。早速ですが、この"RED BIRD studio"を作るにあたり、春畑さん自身は、お2人にリクエストはされたんですか?
春畑(以下、春):いいや。まったく。お任せで。最初はデモテープくらいとれたらいいと思ってたんだよね。
相原(以下、相):そうだね。でも、"部屋にちょこっとデモテープが録れる程度のものを作る"っていうのと"箱から(建物から)つくる"っていうのでは、違うから、それならちゃんとしたの作ろうよ。ってなったんだよね。
「ギターは録りたいよね?」「ドラムは録りたい?」と、ひとつずつハルに聞いていき、それから部屋のスペース(ブースとコントロールルームの広さ)の配分を決めていきました。
春:相原さんはね、エンジニアでもあるんだけど、手作りでスタジオを作ったりもするんだよ。機材も自分で直しちゃうし。
相:日曜大工が趣味で......。大工にもなりたいなと思っていて(笑)。なんでも自分でやっちゃうんですよね。そういうのがスキなんですよ。
──それは既製品を手直ししてより便利に使う、という発想ではなく、やはりゼロから、というか、作る工程を楽しみたいが故?
相:そうですね。単純に既製品をそろえると高額になる場合が多いじゃないですか? でも自分で最初から作ると、コスト面もそうですが、なにより自分の思いどおりのものができる。それが魅力ですね。でもそれは素材からこだわるという話ではなく、今あるものの中で最良のものを選んで作るんです。それは音楽にも通じるんですが、だから僕は絶対にこれがないと作れないって音は作ってないですね。
──"RED BIRD studio"のこだわり。
相:設計に関しては、ハルが使いやすいように。ってことだけですかね。そしてコントロールルームにはキーボードがあって、いつでも弾けるように。そしてハルはここ(卓)には座らないと(笑)。
春:座れない(笑)。
相:それと、スタジオっていうのは吸音と遮音の為に壁を厚くしなけりゃいけないんですよ。天井も高くしたかったんで、少し地下を掘って下げたんですよ。
──それはなぜですか?
相:外部への音漏れがあるので、それを防ぐためです。自宅にスタジオを作るとなると、なおさらですよね。近所のこともありますしね。それはものすごく注意しました。
春:そうだね。最初はレコーディング中に外に音が漏れてないか、聞きにいってたよ(笑)。大丈夫かなぁ。大丈夫かなぁ。って。大丈夫だったから安心した。
春:あと、ブースとコントロールルームをつなぐ配線も相原さんが手作業でやってくれたんだよね。
相:それを自分の手でやったのには大きな理由があって、ここはプライベートスタジオですし、決まった人しか使わないから、あえて、マイク1本のコードを通しただけなんですよ。簡単なんですが、部屋と部屋をつないでいる線は1本だけなんです。(図1)
普通のスタジオは、これはこことつながって、これはそことつながって......という風に、何箇所もジョイント(接点)し、部屋と部屋とを繋げているんです。でも、ここのスタジオはそのジョイント部分をできるだけ少なくしたかったんですよ。
図1 ジョイント図解
壁の中にあらかじめ回線を通してある。ブースとコントロールルームにはそれぞれケーブルが必要だが必要に応じてケーブルの長さを変えたり、機動性がある。
一本のケーブルが壁の中を通っている。長さを変えるのが困難な上にケーブルを片づけられない・・・。

ブースとコントロールルームを繋げているコード。これを卓に差し込む。
高桑(以下、高):そうなんです。見てもらったらわかるんですが、ほんとに1本だけなんですよ。 普通のスタジオなら、パッチ盤(一箇所にスタジオの全ての端子が集まっている)というのがあって簡単に配線をすることができるんですが、ここのスタジオは直接卓に繋がなくてはならないんです(笑)。
相:不便なんだけどね。
高:でも、音のためにあえてそうしているんですよ。この規模だからできるんですよね。もっと大きなスタジオだと無理だったかもしれないです。使い勝手は悪いですし(笑)。でも、それは自分がこだわったところなんで、苦にはならないですね。ブースの広さもこれがべストだったと思います。
──接点が少ないほうが音がよいのはなぜですか?
高:接点がなければないほど、生音に近づくので音がいいんです。
相:接点が多ければ多いほど、音を出しているところからの圧力、エネルギーが減ってしまうんですよ。
春:ギターのシールドをそのまま差したらブースのアンプにつながっているからね。そのままの音でレコーディングできるんだよ。

"植木屋さん"のあだ名をもつ相原さん(左)。
スタジオ前の桜の木の剪定(せんてい)も担当している。
──(接点が多いか少ないかで変わってくる)その音の差というのは、通常のリスナーでもクッキリわかるものなのでしょうか?
相・高:わからないですね。
高:パッっと聴いてわかるものではないんですが、聴き比べたらわかりますよ。
相:そうだね。
──その差がわかりやすい、聴きくらべるのに適している曲はなんですか? やっぱりアコースティックものですかね?
高:そうですね。アコースティックなものとか、声だけのものとかですかね。
相:単音、たくさん音が入ってないようなシンプルなもののほうが、その差はわかりやすいと思います。よりクッキリ、リアルに聴こえますよ。
──音の輪郭が出てくる?
相:そうですね。
──音は心理学とも通ずる?!
──では、先ほど広さもちょうどいいという話がありましたが、部屋の広さは音と関係ありますか?
相:あります、あります。全然あります。ここで完成形まで作ることもありますが、「ドラムだけは別のスタジオで録ろうか」ってなる場合が結構あるんで、ここでは仮って形が多いです。特にドラムの場合。あくまでも仮だけど、でも本番でも使えるように、とはしてありますよ。
春:TUBEの今年のアルバム、ドラムは全部外のスタジオで録ってるね。
高:今年は、広さを重視して、外のスタジオで録りました。ここも単体ではいい音なのですが、どうしても広さがないと、音の"空間"って出せないんですよ。リバーブ(音に残響や余韻を 与えて奥行きのある音にする効果)でそれっぽく聴こえるようにはできるんですが、聴いた感じはやっぱり違うんで。
相:リバーブっていうのは、あるものに対してのシミュレーションなんです。あの部屋での音はこんな感じっていうのが欲しいとき(たとえば、横浜アリーナで聴いたような音の鳴りがほしいときなど)には、やっぱり物足りないんですよ。
──楽曲それぞれでその感覚は違いますよね。
高:そうですね。素朴な感じの音が欲しいときは、小さなスタジオのほうがいいですし、もっとバーン! って感じの音が欲しいときには、広いスタジオのほうがいいですし。
春:狭ければ集中できる。っていうのもあるし、広いと音も広がるし、のびのびプレイできるから、そういうのも音にでるよ。
相:そうですね。目の前に壁がある場合と空間が広がっているのでは違いますし。
春:音に関してはその場でエンジニアに「この音どう?」とかって聞きながらやってるよ。「この曲のときはこっちの音だと思うんですけど」って心が言ったりする場合もあるし。あ、そっか、俺は逆に思ってた。っていう時もあるし。
高:迷ったときは何パターンが録って決めますね。そのときはこれがいい。って思ってても違う場合もありますから。聞き比べが大切です。
──そうですね。それは夜書いたラブレターを朝読み返したらとんでもなかった。って感覚でしょうか(笑)。
相・高・春:そうそう(笑)。
春:このギターソロサイコウ! とか思っても寝る前聞いたら最悪だった。ってことはよくある(笑)。翌日どころか数時間後かよっ。って。
相:出来上がってお皿(CD)になった後でも、「あぁ、あそこ、こうしておけばよかった」ってなりますからね。延々ですよ。難しいよね。自分でやってることって。
春:(笑)。一度ブースの中に4人で満員電車状態になりながら、録ったことあったよね。

機材の前には座らないと言う春畑さん 。
高:ありましたね。ドラムのマイクにベースの音とかが、かぶってきちゃうんですけど、それはそれでヨシ! みたいな気分になるときがあるんですよ。一般的にはある楽器に立てたマイクには別の楽器の音が入らないように録るんです。その方が後でバランスをとりやすいですから。でも実際に聴くと、一体感が出てね。面白かったですよ。
──それは聴いたとき、音がパラついてないということですか?
高:そうそう。音がクッキリしていない、セパレートされていないってことです。聴いてみてください。
TUBE25thアルバム『TUBE』の「Surfin'ロックンロール」、TUBE46thシングル「Ding!Dong!Dang!」
──そうなんですよ。ここのコーナーでこれから伺っていきたいことはそういうことでして、どういう意図でここはこんな音になったとか、こんな風にレコーディングしてみた、など、いろいろなお話を聞いていけたらと思っています。 このコーナーを読んだ人が、「え? そうなの? じゃCD聴いてみよう」と。そんなキモチになってくれたらうれしいです。
相・高:ありがたいことですね。でもTUBEはエンターテインメントな音楽なので、あえてそのネタバレをしないってこともあるんですが、これをきっかけに、興味持っていただければうれしいですよね。
いかがでしたでしょうか? 第1回「SOUND TREASURE」。
今まで何気なく聴いていたCDがより楽しく聴けたり、楽しみながら聴けるようになったのではないでしょうか?
第2回目は、相原さんと高桑さんに実際の音作りについて伺っていきます。お楽しみに!
エンジニア相原 雅之さん(ai-craft)
DIMENSION、大黒摩季、TUBE、春畑ソロなどを手がける。
音が太くて派手なのが特徴。"リバース番長"。
※TUBE14thアルバム『終わらない夏に』を聴いてね。
エンジニア高桑 心さん(ビーイング)
TUBE、春畑ソロなどを手がける。
ストーリー性があるものや、コンセプトモノ大得意。"ローファイ大臣"。
※春畑道哉8thソロアルバム『Red bird』を聴いてね。