第2回 YEAH!! YEAH!! コンプレッサー
私たちが聴いているCDの音は、実際どうやって作られていくのか。スタジオで録音した音をそのままの状態でリスナーのみなさんに届けたい、というアーティストの思いを実現するために、とても大切な作業がありました。
さて、その作業とはいったいどんなものでしょうか。
──コンプって何?
──お二人は作ったものに執着はあるタイプですか?
そうですね、たとえばCDになってしまった後は聴いてくれた方の評価でいいです、という感じか、いつまでも「あぁしておけばよかった」。など自分の中で葛藤し続けるタイプか、なのですが?
高桑さん(以下、高):どちらかと言うとゆだねるタイプですね。でも自分が作った(作品)という感覚はありますよ。
──でも、リリース後、「今回の全然だめだね」なんて言われるとヘコみます?(笑)
相原(以下、相):そりゃぁヘコみますよー(笑)。「ミックス(楽器や歌など音のバランスを最終的に整える作業)がよくない」なんて言われたらねぇ。
高:最悪ですね(笑)。
──CDになり実際に店頭などで売られると、その後の評価はすべてアーティストに向けられるかと思うのですが、実はエンジニアさんたちの力が非常に大きいのではないかと感じるのですが?
相:そうですね。
高:そうですね。
──たとえば、夏っぽい音をより夏っぽく聴かせたり、壮大なバラードをより壮大に聴こえるようにしたり、涼やかなものをより涼やかに聴こえるようにしたり、というようなテクニック、技術というのは、エンジニアさんにもあるかと。
相:技術ねぇ。
──具体的にいいますと、私たちのような編集ですと、よりアオリ感を出す単語とか、写真を目立たせたり、季節を感じるような色使いをしたレイアウト(デザイン)、いわゆる黄金コードのようなものがあるのですが、サウンド的にもあったりするのかなと・・・。
高:ありますね。たとえばコンプ感(コンプレッサーのかかり具合)<※図1参照>ひとつとってもそうですし。それだけで全然印象違いますからね。
図1 コンプ(コンプレッサー)をかけるとは?
音のレベルの飛び出た部分をコンプレッサーという機械をつかって上からつぶす作業。
一定化にして聴こえるように行う作業。
図1 コンプ(コンプレッサー)をかけるとは?
RED BIRD studioにあるコンプレッサー。
上:アヴァロン デザインのステレオコンプ。ナチュラルなサウンドに定評がある。
下:ユニヴァーサルオーディオ 1176 black。名機として有名。
──コンプを制すもの、音を制す?!
──haruhata.comをご覧になっているみなさんのほとんどが、今回この"コンプ"という言葉を始めて耳にしたかと思うのですが、コンプはなぜ必要なのですか?
相:より生の音に近づけるためですね。実は人の耳っていうのは、自動的なコンプが常にかかっているんですよ。それによって、大きな音を聴いたときには、自動的に音を抑えちゃうんですよ。
──それ以上聴こえないように?
相:そうですそうです。マイクと耳の違いというのはそこなんですよ。マイクは入ってきたものをそのままダイレクトに伝えるんです。たとえば、スタジオに入って人間がドラムやギターの音を耳で聴くのと、そこにマイクを立てて、それを聴くのとでは、音が全然違うんですよ。そこで、マイクを通しても、直接耳で聞くのと同じになるように、演奏したままの音に近づける機械がコンプなんですよ。

「音楽はコンプだ」という人もいますよ。と、相原さん。
──なるほど。
相:業界では「コンプなしでは音楽は作れない」なんて言う人もいっぱいいるので(笑)、コンプに関してはみんなかなりこだわりがあると思いますよ。
──エンジニアさんによって全然違う?
相:全然違いますよ!
高:ですね。
春畑さん(以下、春):そうだね。人によっては(コンプを)かけすぎ。って人もいるしね。
相:でも、使っている機械で音が一番変わりますね。
──それはハードが違うと全然違うってことですか?
相:そうです。機材によってColorが違うんです。
春:今ね、こうして話を聞いてて、なるほど! と思ったんだけど。耳にコンプがかかるとか。で、どうしてもアンプの前で聴く音と、(卓があるほう)こっちで聴くのとでは音が違うの。一緒じゃないんだよね。だから今話を聞いて、それは耳のコンプ具合なのかと納得したよ。
相:小さい音を聴いている場合には何の問題もないんだよね。大きい音だとどうしても耳が抑えちゃう。

コンプは奥が深いですよ、という高桑さん。
春:ドラムとかも音が違うもんね。俺自身はね、ずーっとコンプが嫌いだったのね。
相:(笑)そうだねぇ。ハルは特に昔っからコンプ好きじゃなかったもんね。
春:自分がわざと盛り上げてガーンと弾いたピークの部分がつぶされたり、抑えて弾いたところが逆に持ち上がっちゃったりするから。
相:逆なんだよ! 俺が求めているものは。的な(笑)。
春:(笑)うん。だから最初はギターにかかるコンプは好きじゃなかったんだけど。最近は大丈夫になったよ。
──では最近そのコンプが大丈夫? になったのはなぜ?
春:それはね、ドラムにかける感じとかトータルにかける感じで、すごくカッコよくなったり、勢いが出たりするんだよ。後は、やっと自分のギターもつぶれても"あぁカッコイイ"って思える余裕が出てきたからかな。
──その余裕は年齢の問題ですか?(笑)
春:年齢です(笑)。
──コンプの必要性・・・
相:コンプの必要性っていうのは、どの音量で聴くのかって問題にも関わってくるんですよ。
──それはリスナーがですか? それともプレイヤーですか?
相:両方ですね。プレイヤーも大きな音で聴いているときには、コンプはいらないんで。リスナーは環境的に大きな音で聴けない場合が多いじゃないですか? 小さい音で聴いたときにも迫力ある音に聞こえるように、コンプを使うんですよ。
──なるほど。ちなみにコンプをかける作業というのは、1音1音かけていくんですよね?
相:そうです。1音色ごとにやっていきます。
──ということは、単純に考えて、TUBEさんの場合ですと、4つのパート×音の数 ということですか?

楽曲によって音の作り方は全然かわるというお2人。
今回、下段の音のサンプルを作っていただいたのは、高桑さん(右)。
相:そうですね。
高:単純にいうとそうです。
相:大変ですよ(笑)。
──そしてその作業をすることにより、要はコンプのかけ具合により、聴く人によってさわやかな雰囲気に聴こえたり、ジメっと暑い雰囲気に聴こえたりするわけですね。
相:そうですね。
高:ちなみにコンプが薄めのほうがさわやかに聴こえるんですよ。
相:暑苦しいのは、厚めにかけるんですよ(笑)。
音をハデにすることを目的とした使い方も
コンプレッサーには、音を一定化する役割のほかにも、音をよりくっきり、ダイナミックに聴こえるようにすることを目的とした使い方もあります。
聴き比べてみてください。いかがでしょうか? おもしろいですよね。
※使用機材はユニヴァーサルオーディオ 1176 black。
コンプ前
あっさり、サラっとしています。
コンプ後
力強く感じると思います。
シンバルの余韻も延びてます。
──ハードの普及と職人作業
──近年、音楽業界とは限らず、作業が便利になるツール、ハードの進化には目を見張るものがあるのですが、それにより作業に影響はありますか?
春:ほんとだよね。ここ最近のハードの進化っぷりはすごいよね。
相:そうですね。でも、音もそうなのですが、やっぱり締め切りギリギリのところでも作業できちゃうので、作業時間が以前に比べて長くなりましたね。
──音の種類やできることも増えたのでは?
相:そうですね。やっぱり"人と違う音を"というアーティストは多いですから。そういう部分では可能性は無限に広がりましたね。
春:そうそう。今俺が欲しい機械もスゴイもんね。ドラムの音、スネアの音なんかも何種類もあってね。マイクの角度や距離や、部屋の広さ、右手で打つのと左手で打つのもシミュレーションされているんだよ。すごい表現力だよね。
──すごいですね。
春:そうなんだよ。すごくワイルドな音もでるし、素朴な感じの音も出るしね。
──でも、やっぱり"人"が叩く音には負けますよね?
相:もちろん。でも正確さでは勝つよな(笑)。
高:それは間違いないです(笑)。
春:(笑)。でも、打ち込みをわざと正確に入れなければ「これ生なのかなぁ?」って思うくらいよくできてるよ。
──プロの耳でもわからないほどですか?
相:わからないよね。
高:わからないの多いですよ。
春:うん。
──では普通のリスナーではわからないですねぇ。
相:わからないですよ。本当によくできてますからね。
──"TUBE"という音楽

──次は、いよいよTUBEの音楽について聞いてみたいのですが。
高:これだけ幅広いジャンルの音楽をやっているバンドって他にないですからねぇ。
──そうですね。むしろなんでもアリ。なのがTUBEの音楽というイメージがありますよね。
高:そうですね。最終的に前田さんの声が入れば"TUBE"になる。っていう安心感があるから、いろんなトライができるんですよ。
相:あの存在感はすごいよね。
高:そうですね。毎年、まだアレやってなかったかな? あっ! アフリカやってないな。とか(笑)。
──消去法ですか?(笑)。そういえば、リミックスアルバムとか出されてませんよね? シングルだけをつなげたものとか、ぜひ。
高:面白いですね。リミックスといってもいろいろありますからね。どんなのが?
──そうですね。個人的にはハウス系ですけれど、スーパーユーロビートパラパラとか(笑)。
相、高:パラパラ(爆笑)。
春:そういえば去年、DJに1曲渡して、アレンジしてもらったんだけれど、そのアレンジが絶対バンドではできないアレンジになってて、面白かったよ。コード進行とか無視で(笑)。でもそういう捉え方もあるんだ。と。
相:そうだね。音楽理論抜きの感性で作るんだろうね。
春:でも、コード進行だけは直してもらいました(笑)。それでも完成はすごいおもしろいものになったよ。
──では第2回目の最後に、ただいま製作中のTUBE28thアルバム『B☆B☆Q』についてちょっとだけ。
高:今年のアルバムは"空気感"を大事にしようということで制作しました。
春:心がね、いろいろな音楽を聴くから、「今年はこれでいきたい」とか言ってくれるんだよね。で、今年は"空気感"をテーマに。だから、ギターからマイクの距離が遠いんだ。
──では、次回はNEWアルバムの音作りについてを詳しくお話聞かせてください。1曲1曲のこだわりもそうですが、曲間(曲と曲の間)の秘密もぜひ伺いたいと思っていますので。
相、高:ぜひぜひ。
(続く)
連載2回目は、ちょっと専門的な音の作り方を中心にお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?
次回は、リリースされましたTUBEのニューアルバム『B☆B☆Q』について、たっぷり伺っていこうと思っております。
エンジニア相原 雅之さん(ai-craft)
DIMENSION、大黒摩季、TUBE、春畑ソロなどを手がける。
音が太くて派手なのが特徴。"リバース番長"。
※TUBE14thアルバム『終わらない夏に』を聴いてね。
エンジニア高桑 心さん(ビーイング)
TUBE、春畑ソロなどを手がける。
ストーリー性があるものや、コンセプトモノ大得意。"ローファイ大臣"。
※春畑道哉8thソロアルバム『Red bird』を聴いてね。