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SOUND TREASURE

第3回 エンジニアとは?

「SOUND TREASURE」3回目テーマは、スバリ。エンジニアとは?
過去2回進めてきた当コーナーですが、もっと具体的に話を聞いてみたいというご意見が多かったため、 「エンジニアさんの仕事って具体的にどんなこと?」「ミュージシャンとエンジニアさんとの関係は?」など、サイトに多く寄せられた質問を中心にお話を伺ってきました。 レコーディングの失敗談なんかも聞いてみました!

エンジニアさんってどんな仕事?

――今日は、エンジニアさんの具体的な仕事についてうかがっていこうかと。実際に現場ではどうなのか、とか。そういう質問がサイトに寄せられまして。

高桑さん(以下、高):一番簡単に言うとエンジニアは「録音係」です。録音の技術者。1950年代の初期の頃って、レコードエンジニアって白衣を着てたんですよ。科学者みたいに。

春畑さん(以下、春):えーー! マジで?

高:うん。で、ビートルズが登場した60年代くらいから、だんだん変っていったんですよ。

春:へぇ。俺たち高校の頃、初めてスタジオで録音するときに、全然わからなくてねえ。当時録音はテープだったんだけれど、「START」を押してから、ゆっくりテープが回り始めるんだけれど、それが面白くてね。「わーー」とかって録音したものを聴くと、テンポと音程が下がっちゃうから「もわぁ~~」って聞こえるの。それがおかしくて、涙が出るくらい笑ってたな。
聴かせてあげたいな。

春畑

高:今はもうないですもんね。オープンリールのアナログテープ。

春:うん。

高:実は最近、あえて「アナログテープを使ってみよう!」ってことになったんだけれど、年配のミュージシャンはやっぱりその「もわぁ~」を聴いて、「そうそう! コレコレ」ってなってましたよ。

春:(笑)。

高:昔は編集も大変で。テープを切って貼って編集してましたから。それはそれで楽しかったんですけれどね。今では、Pro Toolsで簡単にできますから。

※Pro Tools=デジタルオーディオプロダクションシステム。ソフトの名前。

春:もうアナログのセッティングできないんじゃないかな。俺(笑)。若いエンジニアなんか、テープなんか見たこともないって世界だよね。きっと。

高:そうですね。エンジニアの仕事をもっと具体的に言うと、要はレコーディングなんですが、そのレコーディング、大きくわけて二つの作業があって、ひとつはさっき言った録音、もうひとつは録音が終わったあとに行うミックス作業になります。ミックスとは、バラバラに録られた楽器の音のバランスを整えていき、最終的にステレオ(LとR)に落とし込んでいく作業です。エンジニアによっては録音しかしない人もいるし、ミックスしかやらない。って人もいますよ。

――へぇ

高:でも一般的には、録音とミックスまでをエンジニアの仕事として捉えてもらえたら。

――高桑さんは両方? またどちらかだけを頼まれたときには?

高:基本は両方です。でも録りだけ頼まれることもあるし、ミックスだけ頼まれることもあります。そういうときって、僕の音を知ってくれた上で頼まれるので、そのアーティストの音を聴いて、そのうえで自分の色を出していきます。

――ミュージシャンから見たエンジニアさんってどんな存在ですか?

春:ずーっと相談役。常にこの曲はどうしたら伝わるのか、カッコよくさせられるのかとかを一緒に考えて。提案もいっぱいしてもらうしね。もうプロデューサーだよね。アレンジもするし。

高:欧米では一般的なんですけれどね。プロデューサー兼エンジニアってスタイル。日本はまだ分担って考え方が残ってますけれど、一人でいろいろやれるっていうのは、最近は重宝されますよ。

図1 CDが私たちの手元に届くまで

TUBEの場合はプリプロと本番は一体化してるので、実際の境目はないそうです。

CDが私たちの手元に届くまで

――では、エンジニアさんの仕事の終りってどこですか?

春:マスタリングだよね。

高:マスタリングですね。マスタリングって全部の曲を並べてレベルや音色を整えて、曲間を考える。って作業なんですが、そこまでですかね。

春:でも心はライブまで確認しにくるよね。ここのバランスこうじゃない? とか言ってくれるよね。

高:CD作りということでは、マスタリングまでです。ライブでの音作り、いわゆるPA的なことはしていません。ライブ会場では確かに音のバランスも聴いてはいますが、本当はお客さんと一緒に楽しんでいるだけです(笑)。

春:(笑)。

高:ところでライブにリハーサルは付きものですが、CD制作においてもプリプロをリハーサルスタジオでやって、きっちり練習してから、レコーディングに入るミュージシャンもいます。そっちのほうが多いのかな?

春:俺たちも昔、今年はそのやり方でやろう。ってことになったことがあって。

高:ありましたね。

春:スッゲー練習してね。ライブのリハみたいにやって、ってときあったよ。

※TUBE18thアルバム『HEAT WAVER』

高:リハをすることによって演奏内容が固まりますから、、より完成系のものを見れるっていう利点があります。だからプリプロと本番がくっついちゃってると、この先どうなるんだろ。という不安があったりもします。

春:バンド的には、どっちがどうっていうのはないんだけれど、気分的にやり方を変えるのは気分転換になるよね。新鮮な気分になる。

――ミュージシャンとエンジニアの深い関係

――もともとエンジニア志望?

高:そうです。そうです。運が良かったんですけど、いわゆる専門学校的な所には入学せずに、いきなりスタジオに入社できました。最初の仕事の感想は「レコーディングってこんなに時間かかるものなの?」と。レコーディングなんて1日でチョイチョイってできると思ってたんでね。あんなにひとつひとつ積み重ねていく作業なんだって、そのとき知りました。バンドだと一気にやって、2、3日で終わるイメージがあるけれども、そうじゃないんだなって。

春:特にTUBEは長いからね(笑)。

――そもそもレコーディングって何ですか。という質問がサイトに寄せられまして、これを機会に誤解を解き、正しい認識を持っていただこうかなと思うのですが(笑)。よく音楽雑誌なんかでミュージシャンが「ただいまレコーディング中です」っていっている期間が長いからだと思うのですが。

春:え、どう思われているの?

――曲を作りながら、録音してる作業のことを"レコーディング"と一般的には認識されている場合が多いのでは? と感じていますが。

春:曲はレコーディングの前には出来上がっているよ。ミュージシャンは単純に録音作業のことをレコーディングと言ってると思う。

高:なるほどね。でもそうだよね。なんでそんな長い期間レコーディングしてるんだよ。とは普通に思うと思いますね。

――先ほどTUBEは特に長い。とおっしゃっていましたが、毎回収録曲以外は録音しませんか?

春:いやいや。全然。たくさん録るよ。で最後にバランスを見て抜いていく。またその逆もアリで、過去のあの曲入れたらバランスがいいとかね。毎年、過去の楽曲の見直し作業はするよ。たくさん録ってるからレコーディングが長いってわけじゃないけれどね(笑)

――高桑さんがTUBEのレコーディングに参加されるようになってからどのくらい?

高:1991年からアシスタントとして参加して、95年からメインエンジニアをさせてもらっています。

――それは長いですよね? ひとつのバンドを長いあいだ担当できるって、そのときどきのバンドのテンションだったり流行だったりするものが見えて幸せだと思うのですが。

高:ほんと幸せです。確かに、色々な顔のTUBEを見てきましたが、以前のエンジニアさんから引き継いだときにはすでに世界観が確立されたバンドだったんで、むしろ変わらないスゴさっていうのを感じました。

――変わらない、ていうと、TUBEは"夏"というキーワードだけはぶれずに、ガワ(アプローチの仕方)を変えていっているイメージがあったのですが、そういうことですか?

高:そうです。そうです。でもね、そのほかにも、ここを押さえておけば大丈夫。っていうツボを熟知しているんですよ。メンバーが。それは夏とはなんぞや。ってことでもあるし、音楽的なことであったり、ビジュアル的なことだったりするんだけど。

春:心も俺らのツボを知ってるし。

――なるほど、信頼関係が出来上がっていますね。でも逆に、エンジニアさんが変わると音が変わることは容易に想像がつくのですが、エンジニアさんを変えてみようとは思わない?

春:確かにエンジニアが変わればまったく違う音になるだろうね。TUBEのミィーティングでも次はこういう方向に行こうというのはあるけれど、エンジニアを変えよう。という方向にはいかないなぁ。

高:もちろん、僕もその考え方ってアリだと思うんですよ。エンジニアが変わればバンドにとっても、刺激にもなるだろうし。だからたまに、意図的に違う人を立てたりしてますよ。(春畑さんのほうを向いて)言ったことなかったけれど。

春:ミュージシャンによっては毎回違う(エンジニアが)って人もいるし。

高:そういう人たちは、その人(エンジニア)の音が気に入っているわけなんで、「どうぞ、好きなようにやってください」ってパターンが多いんじゃないかな。

――でもそれだと、毎回意思の疎通が......。説明にかける時間も長くなるかと。

春:そうだね。

高:確かにそれはあると思います"あ・うん"の呼吸は、長いあいだ積み重ねてできるものですからね。

春:お互いに「これで行こう」って言うまで録り始めないし、ちょっとマイクの位置かえてみよう。っていうことを1時間以上かけてやったりもするよ。

――-尊重タイプ?

高:尊重タイプです。エンジニアって仕事はサービス業だと思っているんですよ。ミュージシャンの希望を可能な限りかなえてあげるってことを第一に考えていますね。自分流はその次です。若い頃はそんな風に思えなかったんだけれど、先輩たちの仕事を見ながら学んでいったかな。

春:心が「こんなのどうですか」とかっていうときには、自分的にいいなと思う音はキープしておいて、心が勧める音も録ってみるよ。で冷静に聞き比べる。で、後日「心の言うとおりだったわ」(笑)。って。

――何回も同じ箇所ばかり聴いていると、わからなくなりませんか?

高:あー、ありますね。あります。たとえばソロパートだけ録って、あとで全体をとおしで聴いてみたら、ちょっとやりすぎなんじゃない?(笑)的なことはありますね。

春:爆笑。

高:イキすぎだよね。って(笑)。そこだけ浮いていたりしないように必ず最後に全体を見ますね。

――エンジニアさんの苦悩

――今までのエンジニア生活の中で苦労したことなどありますか?

高:それはやっぱり思いどおりの音が出せないときですね。このCDみたいな音にするにはどうしたらいいんだ。とか。後は、ミュージシャンから「こういう音が欲しいんだけど」って言われているのに、できないとか......。

――できないときは?

高:もうトライするのみです!

春:いろんなミュージシャンがいるからね。たとえば歌うたいの人が「歌いにくい」って言う。でも歌うたいの人は、何が歌いにくくさせているかわからないんだよ。そこで、その「歌いにくい」っていう抽象的な言葉から、それをイコライザーやコンプやリバーブに置き換えて、希望の音にしなくちゃいけないから、そりゃ大変だと思うよ。

高:だいたいミュージシャンの方って、表現が抽象的ですよね(笑)。

――爆笑。

高:それをどう捉えるか。なんですよ。

――気心が知れたアーティストさんなら、クセや好みもわかって、ある程度抽象的でも理解できるかとは思うのですが、初めてのミュージシャンだと、その理解は大変なものなのでは? プレッシャーもあるでしょうし。

高:プレッシャーは常にあります。確かに初めての方とは何回も試さなくてはいけないかもしれないんですけど、それをやることにより信頼関係を築いていくって感じなんですよ。

――そんな中、大失敗なんかあります?

高:失敗? ありますよ。レコーディングでの大きな失敗は、アレですよ。「消しちゃった」ってヤツ。

春:ははは(爆笑)。「スイマセン! 消しちゃいましたっ!」ってヤツだね。

高:あれは一番大きいですよ(苦笑)。ま、そこで心の大きなミュージシャン、"春さんみたいな人"だったら「いいよ、いいよ消しちゃったんだからしょうがないよ」って言ってくれるけれど......。

春:昔のミュージシャンなら。。。

高:大激怒ですね。もう叩かねぇ。もう弾かねぇ。みたいなね(怖)。

――レコーディングは好きですか?

春:好き、だねぇ......。

高:みんな好きなんですよ。だからスタジオに篭るんですよ(笑)。好きじゃなかったら、あんなに長くいられないですよ。

――ミュージシャンの中では、やっぱりライブが好きで、こう小さい箱に中に何日も......って作業のレコーディングはイヤって人もいるかなぁ。とか。

高:中にはいると思いますよ。お客さんいないし。でもライブはその瞬間のものだけど、CDは作品作りだから。それぞれの位置づけは違うと思いますよ。

――最近の中高生の中では、CDを買ったらその場でリッピングして携帯音楽プレイヤーなどに取り込んでしまったら、CDそのものは捨てちゃう。っていうことも、珍しくないそうですよ。

高:なんてこったい。

春:捨てなくてもいいのに......。友達にあげるとかさ。

高:時代の問題じゃないでしょう。物をありがたむって気持ちがないのかねぇ......。

――私たちの世代ではCDを捨ててしまうって行為そのものがちょっと考えられないんですけれどね。でもこうして音楽を提供する環境というものが変わってきて、ミュージシャンやエンジニアがこだわった音というものが、リスナーに届き(伝わり)にくくなっているかと思うのですが、そういう部分での葛藤とかってありますか? これって自己満足かなぁ。とか。

春:いいんだよ。自己満足で。作るときは全力で作るけれど、すでに車の中で聴いているときには俺も細部までは聴き取れないしね。(世の中に)出てしまったら、掃除中に聴いてもらってもいいし、ヘッドフォンで聴く人もいるだろうし。好きに聴いてもらっていいんだよ。

高:こだわりっていうのは、聴いている人にはどこをどうこだわったのか、わからなかったりしますよね。でもやらずにはいられない。世の中に出してお金を出してもらう以上は、作りこんで納得いくものを作りたいんです。学生時代にレコードをレンタルしてきてカセットとかに録音するじゃないですか。その時点でもう細かいところなんかわからないわけなんですけれども......。

春:うん。それでも感動してたもんね。

高:それでも伝わってくるんですよね。

――なるほど、確かにそうです。でもそれだとその音楽を解説する音楽雑誌の意味がなくなっちゃう(苦笑)。

高:なるほどね。

春:そっか。

――ほどよいネタバレはさせてくださいね。

春:うん。

(続く)


連載3回目は、読者の質問から話題を広げて、エンジニアさんのお仕事拝見、をテーマにお話を伺ってきましたが、いかがでしたでしょうか?
ミュージシャンとエンジニアさんのあいだの信頼関係がないと音は生まれないことが見えたインタビューになったかと思います。
ぜひそんなことを思いだしながら、TUBEのCDや春畑ソロのCDを聴いてみてください。
また新しい発見があるかと思います。

当コーナーでは、みなさまからの素朴な疑問や質問を大募集しております。
CDを聴いてみて疑問に思ったことなど、ぜひぜひお寄せください。

年間スケジュール

ちなみに春畑さんに、ここ数年のサイクルのスケジュールをうかがったところ......。

「だいたい12月に来年のアルバムの方向性を決めてるよ。音の方向もここで。
1月~スタート5月、6月までレコーディング。で、7月にCD発売。って感じかな。長いよね。半年もレコーディングに費やしているの(笑)」。今年はまた違うスケジュールだけれどね。


高桑 心 エンジニア
高桑 心さん(ビーイング)

TUBE、春畑ソロなどを手がける。
ストーリー性があるものや、コンセプトモノ大得意。"ローファイ大臣"。
※春畑道哉8thソロアルバム『Red bird』を聴いてね。